- 一般に、歯が動くときには、力を加えるので圧迫されて痛みを感じます。これは、歯根が歯を支えている骨(歯槽骨)に当たって歯槽骨に圧力が生じるからです。やがて歯槽骨は吸収されて緩くなってきて痛みがなくなります。矯正治療で圧力をかけてから歯槽骨が緩むまで2〜4日かかるので、この期間だけ痛みを感じます。
- しかし、矯正治療に来院したあと通常より長く疼痛が続くときや、一旦痛みがひいたあとに痛みが出てきた場合にはワイヤの変形や装置の破折なども懸念されますので、お申し出ください。
- ときどき、装置が当たって歯肉や唇に傷ができることがあります。装置やワイヤなどの先端が当たっている時には調整する必要があります。装置を装着したときには違和感がなくても、数日するとこすれたところが褥瘡(じょくそう)や口内炎になったりします。また、ワイヤが変形したりずれたり、あるいは歯が動いたことで装置の適合が変わってきたりします。違和感があって痛みが出てきたらすぐにご連絡ください。
- 毎食後は歯ブラシで装置周囲をひとつひとつ清掃しなくてはなりませんが簡単ではありません。そのため、齲蝕にならないまでも、下の前歯部の裏側(舌側面)や装置周囲には歯垢がかたまって歯石になっていることがよくあります。その時には歯磨き指導と歯石除去や歯面研磨をしています。
- 歯石除去や歯面研磨には超音波スケーラ−を使用したり、研磨用器材を用いて清掃したりします。
- また、ブラケットなどの付いている歯の表面には茶渋のような着色ができることがあり、齲蝕と見間違いそうですが、着色であれば機械的に研磨すればきれいになります。
- 一般に、固定式装置では歯に接着した装置の周囲に虫歯(齲蝕)や脱灰が生じることがありますので、日頃から歯みがきをしっかりしましょう。歯と装置との間には食べかすが残りやすくて細菌が繁殖して酸を出すので歯の表面が少しずつ溶けて(脱灰)やがて齲蝕になってしまいます。また、口呼吸など口腔内の乾燥も原因です。元々唾液には自浄作用があり、洗浄するだけでなく抗菌作用もありますので、口呼吸や口腔乾燥は齲蝕や歯周病のリスクが高くなります。
- なかには、治療前に重なっていたところが矯正治療で整列が進んでくると重なっていた面(隣接面)の齲蝕が露わになってくることがあります。
- 齲蝕は見つかったら治療を紹介します。
- 特に、矯正治療後のワイ安固定になって定期健診に来院されずに放置されている方のなかに、ワイヤが脱離していることに気づかず、齲蝕が進んでしまっていることがあります。年に2回は定期健診に来院してて欲しいところですが、時間ができたらご来院ください。
- 歯みがきが不十分であれば、ムシ歯だけでなく歯肉炎や歯周病にもなりやすいです。
- 時には前歯部の歯と歯の間の歯肉が腫れてくることがあり、まれに、ワイヤを覆うぐらいに大きくなることがあります。思春期成長期に見られがちですが、妊娠中に見られたり、薬剤の副作用のこともあります。
- なお、治療前から歯周病などが慢性化している場合は歯周病の快癒が困難な事があります。歯ならびが悪いために歯みがきをしにくいこともありますので、難しい選択ですが矯正治療を優先することがあります。
- 矯正治療では歯を動かすので、噛み合わせが変化します。矯正治療では顎関節症状がなくなるように噛み合わせの改善を目標にしています。しかしながら、新しい噛み合わせに適応できない時には下顎や頬付近に違和感や疲労感を覚えたり、疼痛や開口障害が出ることもまれにあるようです。治療前に顎関節症状がある場合には大学病院等で精密検査をします。また、治療途中に症状が出たときは治療方針の確認をしますが、大学病院等で精密検査することも必要となります。
- 矯正治療と顎関節症の関係は判別が困難で、矯正治療で顎関節症状が出てきたり、治ったりしますので、違和感や不安は早期に伝えてください。
- 矯正治療では歯が移動しますが、歯が変化するのではなくて歯を支えている歯槽骨が変化するために歯の位置が変わるのです。歯を押すと、押された歯槽骨が吸収されて、そこに歯が押し出されます。そして、動いた後には歯槽骨が改めて造られてきます。そのため歯が移動しているときはグラグラ揺れるのが通常です。決して指や舌で触って動かさないようにしてください。
- まれに、歯肉が下がって歯が長く見えることがあります。あるいは、歯と歯の間が下がると隙間が目立ってきます。これは、治療前は重なっていたところは矯正治療で歯と歯がはなれて並ぶことになるので歯頚部付近には隙間が生じるから隙間が拡がり歯肉が下がって見えます。この時は歯を削合して閉鎖したり、修復材を接着することを検討します。
- なお、矯正治療では歯槽骨がさがってきて歯が動揺することは極めてまれですが、この時は治療方針や歯の移動方法を再検討し、歯周病の専門医に相談することがあります。
- 歯を動かすと歯の根の先端が短く(歯根吸収)なることがまれにあります。力が強すぎることや、歯にかかる噛む力の強さ、方向に起因するとも言われていますが、正確にはわかっていません。この時には矯正治療の方法や方針を再検討する必要があります。
- まれに、歯の神経がダメージを受けて失活することもあります。何かが歯や口元ににぶつかったり、転倒したときなどに衝撃で歯の神経がダメージを受けて歯の色が暗くなったり、神経が失活してしまうことがあります。その後しばらくすると根尖が腫れ上がって激痛があります。この場合には齲蝕と同様に対処します。
- 歯が動くと噛み合わせの場所が変わったり、噛み具合が変化して部分的に歯の先端がこすれて削れて(咬耗、摩耗)しまうことがまれにあります。また、歯に装置の角が当たって歯が擦れてくることもあります。この場合には齲蝕と同様に対処します。
- まれに、歯が全く動かないことがあります。レントゲンを撮影しても見つからないことがあり、CTなどで見ると歯槽骨という周囲の骨と歯がつながって、進行すると歯根の一部に骨が置換、嵌入してしまい歯が全然動かなくなってしまった状態です。この場合には治療方針の再検討をすることがあります。
- 極めてまれですが、歯が失活している場合などに歯がもろくなっていたために、力を加えたときに歯が欠けたり折れたり(破折)することもあります。その場合には通常の齲蝕の処置と同様にすぐに治療をしてもらいます。
- 矯正歯科材料は多くが金属でできていて、希少金属を含んだ合金です。そのため、まれに金属アレルギーを起こす人がいます。顔や手足、腹部などに痒みが出たり、赤くなったりすることがあります。そういうときはかかりつけの病院で診察を受けてください。歯科金属が原因であればすぐに装置を除去します。また、装置や治療方針を変更する必要があります。